邑生side

彼女はいつも場所で本を読んでいた。

どんな本なのか、
駅中にある書店オリジナルのブックカバーに隠れて
タイトルはわからないけれど、
微笑んでいたり、真剣な眼差しで読んでいたり、
いつしか彼女の表情から目が離せなくなった。

自宅から時間のかかる高校を選んだから
朝は通勤ラッシュに巻き込まれなくて1時間かかる電車の時間も苦痛ではなかった。

スマホを見るサラリーマンや学生が多い中、
ずっと本を読んでいた彼女がいつしか気になっていた。

自分の真向い
同じ時間、同じ車両の扉側で静かに本を読んでいる彼女。

自分もスマホから本を読むようになったのは、
本を読むふりをして彼女を見ていたいから。
そんな動機で本を片手にしているのは言えない。

自分がいつも乗る電車
同じ車両、同じ時間。
自分の、最寄駅の次に停車する駅から乗り込む彼女。

彼女の反対側の扉が自分の定位置だった。