邑生side



文化祭が終わって

彼女と、電車で会わなくなった。

なにか事情が変わったのかもしれない。

特別約束なんてしないのだから
電車が違ってても特別なことじゃない。

だけど・・・

文化祭の日

あのとき

目があって、
確証はないけど、
確かに目があって

お互いきっと気が付いたんだと思った。

同じ時間
同じ電車にいることを
お互いに知っている。

なんとなく、そう思った。


あとを追いかけたのは無意識だった。

ただ話ししたくて
とにかくもう一度、話をしたかった。

ただ
彼女を探していた。

追いかけたことが彼女の気分を損ねたのか。
それとも
何かあったのか・・。

文化祭が終わったあとも

このまま
いつものように電車で会えると思っていたから

また会えた時に
彼女が忘れた文庫本を返すときに話をしたらいいと思っていた。

「邑生、帰らないのか?もうHR終わったけどなんか元気ないしどうした?」
「別に。」
「・・・別にって。どう考えてもおかしいだろ?文化祭終わってから
同じ本みつめてため息ばかりついていたら。」

恒星に心配されてしまうのはわかっている。

「あの子のこと?」
「・・・・・」
「黙ってるってことはそうなんだな。」
「いないんだ。・・・文化祭終わってから同じ電車にいなくて。」
「事情があるんだろ?」


恒星に言われなくてもわかっている。
きっと理由なんてない。

でも・・・・・・


「好きなんだろ?」
「・・・・」

「まだ始まっていないだろ、そもそも。これからなんじゃないの?
せっかく会えたんだし、まずはお前の気持ちとか伝えてみたらどうなの?」
「・・・・」

初めてあったときはまさか
再会できると思わなかった。
それが
電車で会うようになって

そのうち会えることが楽しみになって
いつしか・・・・


それに
自分たちは何も
まだ始まっていない。

まだ何も・・・

「・・・・」
彼女が読んでいた文庫本をカバンに入れて、学校を飛び出す。

会えるかなんてわからない。
でも、もし会えたならちゃんと伝えるんだ。

きちんと
始めるために。