そんなにも傷ついているのに、彼女は自分の気持ちを教えてくれた。悲しみを伝えてくれて、自分を求めてくれた。
 それが堪らなく愛しく思えた。

 契約結婚をしたはずなのに、どうしてこんなに夢中になっているのか。理由などわかっている。けれど、今は忘れなければいけない。これは、どんなに好きになっても期間限定の恋なのだから。
 

 「…………想うだけならずっと続く、か…………。」


 椋は、書斎の椅子に座り、はぁーーっと息を吐いた。




 椋は頭の中でしっかりと覚えていた住所を、1台のパソコンを使って検索する。すると、すぐにその周辺の地図と画像が表示される。本当に便利な世の中になったと思う反面、怖いなとも思う。知らない間に自宅が撮影されており、全世界へと配信されているのだ。
 それを便利と思うこともあるが、怖いと思う瞬間も多いはずだった。


 「まぁ、今はかなり助かっているけどな。」


 呟きながら、その小さなアパートの画像を見つめてる。
 袋小路にある少し古びたアパートだ。知らない土地だったため、調べていたがここに少し前まで彼女が住んでいたのかと思うと不思議だった。


 椋が調べていた住所。
 それは、花霞が椋と住む前に、元彼氏である玲という男と同棲していたアパートがある住所だった。
 花霞と結婚するにあたり、住所変更をした時の書類を椋は確認していた。職業柄、1度みた住所などは頭に自然と入り覚えていられる。


 何もないといい。
 覚え損になれば、その方がいいのだ。
 そう思っていたが、その考えは悪い方へ行ってしまった。


 「覚えていてよかった、になってしまったか。」


 そして、引き出しから1枚の写真を取り出した。そこには、1人の男が写ってきた。ボサボサの茶髪に目付きの悪い男だ。パチンコをしているようで、不機嫌そうに前の台を見つめている。

 
 椋はその男を睨み付けながら、机の上に写真を投げた。


 「………さて。この男には、報いを受けてもらわなきゃいけないな。」


 妙に優しい口調だったけれど、その表情は全く微笑んではいなかった。


 冷たく温度がない言葉だった。