「具合が悪いのにごめん。でも、可愛いと思ったのは本当だから。」
 「っっ…………。」
 「あ、そうだ。花霞ちゃん、左手貸して。」
 「はい?」


 花霞は言われた通りに彼に左手を差し出した。
 すると、彼は薬指から結婚指輪を取り外してしまったのだ。花霞は驚き、ベットから起き上がろうとした。


 「椋さん、どうして………。」
 「大丈夫だ。………傷がついてるし、砂も入り込んでいるからお店に持っていってクリーニングしてもらうよ。」
 「………それってどれぐらいかかるんですか?」
 「1週間から2週間ぐらいかな?」

 
 椋の答えに、花霞は驚きその間結婚指輪がないのが寂しいと思ってしまった。


 「クリーニングしなくていい………。そのままでいいです………。」
 「花霞ちゃん………。あ、そうだ。ちょっと待ってて。」


 椋は何か思い付いたのか、急いで部屋を出ていった。花霞はどうしたのかわからなかったが、すぐに彼は戻ってきた。


 「じゃあ、君の指輪の変わりにこれを貸してあげる。」
 「………?」


 そういうと、椋は花霞の首に手を伸ばして、ネックレスをつけてくれた。シルバーのチェーンには、指輪が付いていた。それは毎日見ていたものだった。


 「これ、椋さんの結婚指輪。」
 「うん。本当は外したくなかったけど、君になら貸してあげるよ。これなら寂しくないでしょ?」
 「………でも、椋さんの指には………。」
 「そうだねー………じゃあ、帰ってきたら花霞ちゃんの指輪を貸して欲しいな。同じようにネックレスにするから。」
 「………わかった。ありがとう、椋さん。」 


 花霞は自分の首にかかる彼の結婚指輪に触れながら、ニッコリと微笑んだ。


 自分の結婚指輪がないのは寂しいけれど、彼が今まで大切にしていた指輪が自分にある。
 それだけで、嬉しくなってしまう。



 きっと、今日は彼がいるように感じてゆっくり眠れる。そんな風に花霞は思った。