切なく声を上げる花霞を、玲はあの日と同じような冷たい目で見た。
 花霞自身には全く興味を持っていない。そんな表情だった。


 花霞は、玲を見上げてそう言い続けるけれど、その後の彼はまるで花霞の言葉を聞いていないようだった。

 手の中にある指輪を睨むように見つめた後、玲はギュッとそれを握りしめた。



 「…………こんな名前入りなんて売れないんだよっ!」


 そう怒鳴ると、玲はその指輪を暗闇の公園へと力強く投げた。


 「やっ…………。」
 「ほんと、おまえって使えない奴だな。俺から別れて正解だったわ。」


 呆然と指輪が投げられた方向を見つめる花霞にそんな言葉を怒鳴り付けて、玲はドスドスと足音をならしながら公園から出ていった。



 ポトリポトリ…………。


 涙の粒が溢れ、花霞と頬を濡らした。
 そう思っていたけれど、それは次々と夜空から降り続けた。
 
 花霞はよろよろと立ち上がり、彼が指輪を投げた方向へと歩いた。
 けれど、そこは街頭の光が届かない暗闇が広がっていた。

 次々に雨水は花霞に落ちる。
 少しずつ雨足は強くなっている。


 
 「指輪………椋さんの指輪を見つけないと。」



 花霞は、涙と雨でぐちゃぐちゃになった顔のまましゃがみこみ、手や足を泥まみれにしながら、必死に指輪を探し続けた。


 何だか少し前にもこんな事があった。
 それを思い出してしまい、花霞は更に大粒の温かい涙が瞳から溢れ出たのだった。