2話「雨と涙の粒」




 泣いていてもわからないはずだ。
 自分の顔は雨で濡れている。どんなに泣いても目の前の男にはバレていないはずだった。

 けれど、その男は心配そうに花霞の顔を覗き込んでいる。
 男のビニール傘に雨粒が落ちてパタパタと音がなる。花霞がこれ以上濡れないように傘をさしてくれているのに花霞はやっと気づいた。男の肩が濡れている。自分の顔はこれ以上濡れていない。そんな中泣いていたのだ、男は花霞が涙を溢した事に気づいたかもしれない。


 「ぁ…………あの………。」

 
 男の言葉に返事が出来ないまま、花霞は視線を反らしながら手で顔についた涙や雨水を拭こうとした。けれど、手も濡れているため上手拭くことが出来ない。

 すると、男が持っていたバックから黒のハンカチを取り出し、花霞に渡した。

 
 「どうしました?何かあったんですよね?」
 「あ、ありがとうございます。」


 花霞は彼が差し出してくれたハンカチをありがたく受け取り、顔に当てた。すると、ほんのり温かさを感じて、また涙が瞳に溜まっていくのがわかり、花霞は慌てて目にハンカチを当てた。


 「こんなに濡れては風邪をひいてしまいますよ?家はどこですか?送ります。」
 「その…………帰る家がなくなってしまって。」
 「え…………。どういう事ですか?」


 花霞の言葉を聞いて、男は驚いた様子で目を大きくさせた。
 優しく問いかけてくる男に花霞は何故か自分の事を話そうと思った。知らない人にこんな不幸な話をしても迷惑な事だと理解している。けれど、彼ならば聞いてくれる。少し、この人に甘えてもいいだろうか。そんな事を思ってしまう雰囲気を、男は持っていた。不思議な人だ。