そして、ドキドキしながら車に揺られる事、数十分。大きなホテルに着いた。そこは高級ホテルとして有名な場所で、部屋が豪華だと言う話や、レストランの夜景が綺麗だとか、食事が美味しいなどの話は聞いたことがあった。
けれど、花霞には全く縁がないところで、敷居が高すぎる場所だった。
ホテルの駐車場に車を停め、椋は花霞の手を引いて、当たり前のようにホテルに入ろうとするのを、花霞は慌てて止めた。
「待って!」
「ん?どうしたの?」
「…………今からここのホテルに行くの?」
「うん。もちろん、そうだけど…………。」
「私、綺麗にしてきてないし、服だって……場違いすぎるよ。」
花霞は不安そうに彼に帰ろうと訴えるが、椋はキョトンとした顔を見せた後、クククッと笑った。
「何で笑うのー………。」
「いや、可愛いなぁーと思って。」
「可愛くないですよ!」
「いや、俺は素っぴんの方が可愛いと思ってるよ。」
「っっ!!」
抗議しているはずが、何故か褒められてしまい、花霞はついドキッとしてしまう。
頬が赤くなったのを見て、椋は嬉しそうに微笑み、今度は優しく言葉を紡いだ。
「ほら、俺もラフな格好でしょ?」
確かに、椋もダボッとした長袖に細身のズボンという、正装とはいえないものだった。
「だけど……。」
「さ、行くよ!」
「待ってくださいーっっ!」
椋に手を引かれて、花霞はずるずると手を引かれるように歩いて行った。
花霞は観念しながらも、ホテルを見上げて、不安をつのらせていた。