「あ、そういえば、椋さんに渡したいものがあったの。」
 「ん?何かな?」


 名残惜しかったけれど、彼から体を離して、置いてあった花霞のバックからある物を取り出した。茶封筒だ。

 
 「あの………少しだけど受け取って欲しいの。今まで色々して貰ってたから。」
 「………これは?」
 「今日、お給料日だったから。椋と暮らし始めてから、生活費も私の物も、デートした時のお金も全部払ってくれたでしょ?それ全部はこれで足りないと思うんだけど。受け取って貰えないかな。」
 「………花霞ちゃん。」


 先程まで微笑んでいた椋だったが、封筒を見た瞬間、表情が変わった。
 怒っているのとは違う、どちらかというと悲しんでいる表情に花霞は見えた。
 首を横に振って、椋はその封筒を受け取ろうとはしなかった。


 「花霞ちゃんと俺は結婚したんだ。同棲でもない。花霞ちゃんと一緒に生活したいから結婚した。」
 「だったら!私の給料も使ってください。椋さんばかりなんて、おかしいですよ。」
 「いいんだよ。俺はエリートだから沢山お金貰ってるからね。」


 冗談を交えながら椋はそう言い、花霞を説得した。けれど、花霞は全く納得出来ずに、じっとりとした視線で椋を見つめた。
 それを見て、椋は苦笑しながら言葉を続けた。


 「それにね、言いたくはないんだど………俺と花霞ちゃんは期間限定の結婚だよね。俺との結婚生活が終わったとき、花霞ちゃんは一人で暮らすことになるよね。その時のために、お金は取っておいて欲しいんだ。」
 「………一人で暮らす。」


 椋の言葉を聞いて、花霞はハッとした。
 期間限定の半年だけの結婚生活。
 そう約束したはずなのに、花霞の中でこの心地よい生活がずっと続いていくように思っていた。けれど、これは時間が決まっているものだと、つい忘れかけてしまっていた。
 呆然としている花霞を見て、椋は苦笑いを見せた。


 「ごめん。そんな風に悲しげな顔をさせるつもりはなかったんだけど………何だか、嬉しいな。」
 「え………?」
 「俺と離れるのが寂しいって思ってくれたんだよね。………俺としては、半年が終わってもずっと一緒に居たいと思ってるんだけど。」
 「…………椋さん。」