「…………おまえは本当に警察みたいだな」
 「椋さん………」
 「………俺を叩いたり蹴ったりする時の親父は笑ってたんだ。とても楽しそうだった………その意味が知りたかった。だから、楽しそうに喧嘩をする奴を見ると、相手してた」


 父親に手を上げられ傷つけられた過去。
 父親の真意をしるために喧嘩をしていた椋。

 その気持ちを理解しようと思っても、それは出来ないと、遥斗は思った。
 遥斗は椋ではないし、それに椋を知らなすぎた。今、理解した気持ちで頷くのは違うと子どもながらに思った。


 「わかった?お父さんが叩いてた意味を」
 「わっかんないな。何も楽しくないし、むしろ痛いぐらいだ。虚無感しか残らない」


 だから、遥斗を殴ってしまった時に泣きそうな顔をしていたのだと遥斗はわかった。


 「ばかだよな。そんなのでわかるはずもないのに。………けど、親父はもう病死したから理由も聞けなかったんだ。過去の事に捕らわれながら過ごして、何が楽しいのかわからなくなってきた。って………おまえに話すことじゃないな」
 「何か目標があれば毎日が楽しくなるって母さんが言ってた。俺も楽しい!頑張ることたくさんあるから。だから……….、警察になろう!」
 

 難しい事はよくわからない。
 でも、椋が過去に辛い思いをしてそれをずっと抱えて生きていくよりも、楽しい事を想像して、さっきみたいに笑って生きてほしいと思った。それに、椋は無表情よりも笑顔が似合うと感じた。


 「………まぁ、考えておく」
 「本当っ!?一緒に目指しましょうね!」
 「だから、まだ考えてるだけだ!」


 そう言った椋の頬は少しだけ赤くなっていて、口元が緩んでいるのがわかり、遥斗も嬉しくなったのだった。




 それから、しばらくして遥斗は喧嘩をしなくなった。
 突っ掛けられる事もあったけれど、それも無視し、それでもしつこい奴らに対しては相手もせずに徹底的に逃げた。それを繰り返していくと、相手も飽きて椋を追ってこなくなったのだった。