次の日。
 遥斗はすぐに行動した。
 朝早くから家を出て、学校には向かわずに椋が登校してくる方向で、彼を待ち伏せする事にしたのだ。その道はあまり人が通らない、静かな住宅街だった。小さな公園があり、そこに身を隠して椋が来るのを待った。
 すると、登校時間を少し過ぎた時間に、とぼとぼと歩く椋の姿を発見した。
 勝負は1回。失敗したらおしまいだ。遥斗は大きく息を吐いた後、じっと彼が来るのを待った。ザッザッと彼の足音が聞こえてきた。
 遥斗は、その音が耳元に聞こえた瞬間に、隠れていた木の影から勢いよく飛び出した。
 すると、突然飛び出てきた遥斗に驚いた椋は、その場に固まり目を大きくしてこちらを見ていた。チャンスだ。そう思い、遥斗は考えていた事を行動に移した。

 遥斗が考えていた事。


 「…………なっ…………っっ!!」


 遥斗は昨日、椋にやられたように、彼の頬にに向かって思い切り拳を叩きつけ殴ったのだった。


 体格さや年齢、そして経験不足からなのか、椋の体は驚きで体をよろけさせただけで、遥人のように体が倒れる事はなかった。だが、彼の頬は赤くなり、唇の端から血が流れ始めていた。


 「椋さん、俺とかっこいい警察になりましょう!絶対楽しいです!かっこ悪いことはやめてください!」


 殴った勢いのまま、椋に向かってそう大声を発してしまう。
 何故、椋が殴ってから悲しい顔をしたのか。それが遥斗には理解出来なかった。
 だが、今実際にやってみてわかった。
 人を殴るという事は、痛くて、虚しくて、悲しいのだ、と。


 「カッコ悪いカッコ悪いうるさいな………!!俺はおまえより断然に強い。それの何が悪い!?」



 椋は遥斗の胸ぐらを掴み、遥斗の顔を睨み付けながらそう怒鳴った。殴られた時と同じようは迫力があったが、遥斗はグッと怖さを自分の中の押し込めた。


 「強いのにいじめてるからカッコ悪い。強くて頭もいいのにカッコ悪い事してるから、カッコ悪すぎるんだ!」
 「………おまえ、バカだろ?それしか言えないんだな」


 また、殴られると思っていたが、椋は何故か突然吹き出し笑い始めたのだ。服を掴んでいた手も離れた。


 「くくくくっ………何かばからしくなったわ」


 笑いを我慢出来ず、口元を隠しながら笑う椋を見て、遥斗も思わず笑みがこぼれた。
 

 「面白い奴だな、おまえは」
 「遥斗だよ」
 「………遥斗か。昨日は悪かったな」


 そう言って、手を差しのべてくれた椋の手を遥斗は力強く握りしめた。


 その日から、2日のヒーローへの道は始まっていたのかもしれない。