ShortStory3 「ヒーロー 中編」






 「カッコ悪いですっ!」
 「っっ!また、おまっっ」


 椋が遥斗に声を掛けた瞬間、遥斗は椋に背を向けて走って逃げ出した。
 最近はそんな事を繰り返しながら、椋に自分の思いを「喧嘩はだめ」伝えているはずだった。椋が喧嘩をしている時、授業をさぼっている時、帰宅する時………時間がある時に、椋の元へ言っては声を掛ける。その繰り返しだった。


 「おまえ、椋先輩相手によくやるな……」
 「だって、本当に勿体無いから」
 「そんな事言っても話聞いてもらえてないだろ?」


 そんな日が数週間続いたある放課後。
 いつものように校庭で友達と少し遊んだ後に帰宅しようという時に友人が遥斗がそう声を掛けた。毎日繰り返させる出来事を呆れたようで見ているようだった。


 「そんな事ない!きっと、俺の話を聞いていつかはヒーローになってくれるさ」
 「ヒーローっておまえ……ガキかよ」
 「椋先輩にもガキって言われ過ぎててそうなのかなって半分思い始めてるよ」
 「まぁ、ガキっていうよりしつこい奴だけどな……………!!」


 遥斗の隣を話しながら歩いていた友達が驚い様子で前を見ていた。そして、少しずつ表情が恐怖で歪み始めた。その変化を怪訝に思い遥斗がその視線をおうと、その先にはズボンのポケットに手を入れ、こちらを睨み付ける椋の姿があった。いや、2人を睨んでいたわけではない。遥斗だけだ。
 友人はすぐに身をすくめ「お、俺、先に帰るわ!」と、逃げてしまったが、遥斗は全く気にしなかった。
 この状況が、むしろ嬉しいと思ってしまったのだ。
 ずっと追いかけていた相手が自分から来てくれたのだ。少しは自分の話しが届いたのだろうか。そう思えた。