突然、「かっこ悪い」と言われれば誰だって、怒るだろう。だが、それが椋に1番伝えたい気持ちだった。
 その力があるなら、その俊敏さがあるなら、もっと違う事に使えばいいのに。そう本気で思っていた。

 椋のように遥斗もキッと睨み付けるけれど、彼と自分とは全くもって威厳が違っていた。

 すると、椋はドスドスとこちらにゆっくりと近づいてきた。
 彼が近づく度に逃げたしたくなったけれど、それでも、間近で椋を見てしまうと、その瞳に釘付けになっていた。
 少し茶色の瞳は、虚ろで光りがないように見える。だけれど、とても澄んだ琥珀のように美しい茶色の瞳だった。


 が、気づくと遥斗の視界は一転していた。茶色の琥珀から、次に見えたのは、少し赤く染まった空だった。その次に感じたの背中や頭の痛みだ。
 あぁ、自分は倒されたのだ。そこでやっと、椋に脚をすくわれて倒されたのだわかった。

 ドスッという音と共に胸が圧迫される。
 遥斗に片足で踏まれているのだ。


 「ぅ…………」


 上手く呼吸が出来ない。
 痛い、苦しい、怖い。
 …………そう感じているはずなのに、冷静な気持ちで椋を見上げていた。


 「うるさいんだよ、ガキが」


 冷たく言い捨てると、椋はすぐに背を向けて歩き始めた。

 その背中を遥斗は見えなくなるまでジッと見つめていた。


 それが、遥斗と椋が会話し、そして対峙した初めての日だった。