同じクラスの友達に大きな独り言を聞かれると、また呆れられてしまう。最近の遥斗は椋の事ばかりだった。
 先日、友達と帰宅途中に、椋が複数の相手とケンカをしている所に遭遇した。友達は怖がっていたが、遥斗は違った。かっこいいと思ってしまったのだ。
 かっこよくて強い。まるで、テレビの中のヒーローのようだったのだ。遥斗の夢は、ヒーローになる事。もちろん、本物のヒーローがこの世界にいないのはわかっている。だからこそ、人を守るかっこいい職業、「警察」になろうと昔から決めていた。
 けれど、遥斗は力もなかったし、特別頭がいい訳でもない、容姿が飛び抜けていいわけでもなかった。だからこそ、噂で聞いていた椋に会えて、憧れを持ったのだ。

 だからこそ、勿体ないと思うのだ。
 彼こそ、本当のヒーローになれる。そう感じていたのだ。


 「何か話せるきっかけがないかなー」
 「やめとけ。いつも不機嫌そうに歩いてるし、おまえの口癖の「ヒーローはかっこいい!」って言葉を聞いたらどつかれるぞ」
 「………本当に悪い人なのかなー。自分からはケンカしてないような気がするけど」
 「ケンカ仕掛けられたから倍返しにするのは、ヒーローなのかよ」
 「だから、止めてもらって説得すれば………」


 放課後のクラスで帰る準備をしながら、友達と話をしていた時だった。別のクラスで仲がよかった男が、遥斗たちの教室に駆け込んできた。


 「おい!遥斗!椋先輩がケンカしてるみたいだぞ!」
 「え!?どこだ?」
 「体育館裏のプールの脇だってよ!」


 その言葉を聞くと、遥斗はこれはチャンスだと思った。すると、体は勝手に動き始めていた。鞄を持って、教室から駆け出していたのだった。


 「………俺、行ってくるっっ!」
 「おいっ、遥斗っ!おまえが敵う相手なわけないだろ!」
 「ちょっと話をしてくるだけだよっ」


 そう言うと、遥斗は友達たちに背中を向けたまま手を上げて別れた。そして、椋が居ると言っていた体育館裏まで向かったのだった。