5話「冷たい瞳と優しい唇」




 期間限定で訳ありの結婚が決まった、椋と花霞だったが、花霞は彼の勢いに押されていた。

 椋は結婚に強い憧れがあったのようで、いろいろな事を要望してきた。もちろん、花霞だって結婚したいなとは思っていた。だが、女性以上に希望があったようだった。
 出会ったばかりで結婚だけでも驚いていた花霞だったが、長い付き合いの恋人のように椋は接してきたのだ。


 「お風呂の使い方、わかった?」
 「は……うん。ありがとう。」
 「パジャマは今度一緒に買いに行こう。他にもいろいろ揃えなきゃ……食器にタオルに歯ブラシに……。」
 「あの、あるものはそのまま使うから大丈夫だよ。キャリーケースの荷物はどこに置けばいいかな?」
 「空いてる部屋があるから、そこを使ってくれればいいよ。じゃあ、ここの家の案内も一緒にしよう。」


 そう言うと、椋は花霞が持っていたキャリーバッグをさりげなく抱え持ち、先を歩き始めた。かっこよくて、気配りも出来る優しい椋。なぜ、モテないのかがわからなかった。

 
 「まず、リビングのすぐ隣の部屋は、君が寝ていた寝室。……お風呂は断られちゃたから、寝る時は一緒に寝ようね。」
 「………………わかりました。」
 「大丈夫だよ。さすがに、今日は手を出しません!………まぁ、今は、ね。」
 「椋さんっ!」
 「んー、怒らないで。………夫婦なんだからいいと思うんだけど。」


 花霞の返事を聞いて、椋は納得していないように、ブツブツと文句を言っていた。それでも顔は笑顔で何とも楽しそうにしており、花霞は思わず微笑んでしまう。こんな状況なのに、彼の笑顔が伝染しているのかもしれない。