「俺は大丈夫だけど………花霞は大切な時期だなら無理しない方がいいだろ?」
「…………私は椋さんとデートしたいだけだよ………」
「花霞?」
いつもなら笑顔で「そうだね」と言える場面のはずだ。それなのに、今日は違った。
椋の言葉に傷つき、大切にされているのに、切なくなってしまったのだ。
花霞は俯いて呟いてしまったので、彼に言葉は伝わってはいなかった。
「ごめんなさい……汗かいたからお風呂入ってくる」
「おいっ!どうしたんだ?」
花霞は椋の言葉を無視して、リビングから逃げんように早足で去っていった。
脱衣所に行くと、瞳から少しだけ涙がこぼれた。
「こんな我が儘で甘えん坊なお母さんでごめんね」
少し大きくなったお腹をさすりながら花霞は小さくまだ見ぬ赤ちゃんに話しかけた。
自分の子どもは夢であったし、大切な人との赤ちゃんは今でも十分に可愛くて愛おしい。
それなのに、椋の愛情が全て赤ちゃんに行ってしまうのが、堪らなく悲しかった。大人げないし、こんな事で立派な母親になれるのかと不安にもなってしまう。
椋の些細な言葉でショックを受け涙してしまうほど、今はナイーブになっているのかもしれない。
それでも、自分の気持ちに納得出来ずに、花霞はため息をついたのだった。
風呂場に行くと、彼が準備していてくれたのかお風呂が沸かしてあった。ここまで先を見て心配をしてくれているのに、あんな事で怒ってしまってはダメだ。
湯船に浸かりながら、花霞は反省し、後で椋にしっかりと謝罪をしなければ。そう思っていた。
ガチャッ
突然風呂場のドアが開き、そこから椋が現れたのだ。