花霞は仕事を続けていた。大好きな仕事だったので、妊娠しても休むつもりはなかったのだ。体調が悪くて休んだり、早く帰ってしまう事もあり、親友である栞に迷惑をかけてしまうと心配していたけれど「そんな心配しないで!私も赤ちゃん楽しみなんだから!」と、笑顔で激励してくれたので、ありがたく甘え事にしていた。

 仕事終わりも、休みの日も、花霞と椋は子どもの事を考えていた。男の子か女の子なのか。どんな名前にしようか。生まれた時の準備をしたり、この大きなマンションではなく一戸建てに引っ越そうか。そんな遠い未来の話しまでも語り合った。
 確かに子どもが生まれるのは嬉しいし、楽しみだ。彼と一緒に愛しい赤ちゃんの成長を見守っていけると思うと、今からとても楽しみだった。

 けれど、少しずつ寂しさも感じるようになっていた。





 「それ、のろけ話?」
 「ち、違うよ!!蛍くんが仲良くしてるのって聞いたから、少し話しただけで………」
 「幸せそうで、何よりです」

 分厚いアクリル板越しに蛍は優しく微笑んだ。
 この日は蛍が収容されている刑務所での彼との面会の日だった。月に1度訪れるようにしており、花霞はその日を楽しみにしていた。
 逮捕された時は少し疲れた様子だったけれど、今では穏やかな笑みを浮かべられるようになっている。
 最近はつわりなどで体調が悪くなかなか来れなかったが、少し前に久々に訪れると「久しぶりですね。花霞さん、妊娠でもした?」とすぐに言い当てられてしまった。蛍は「顔が何だかお母さんっぽくなった」と話し、花霞を喜ばせたのだった。