Short Story「花の笑顔」



 「おはようございます。いってらっしゃい。」


 そう声を掛けられた時、自分に挨拶されているのだとわからず、無視をしてしまった。けれど、顔を上げて声が聞こえた方を見ると、そこには若い女がこちらを見て微笑んでいた。
 まだ20歳にもなっていないか、それぐらいの年齢で、ふんわりとした笑顔が可愛らしい女だった。きっと花の香りがするんだろうな、と椋は思った。
 今更挨拶を返そうと思ってから、はっとした。今は金色の髪に黒のスーツ。少し色がはいったサングラスという格好で、見るからにヤバイ男の格好だった。椋は、警察官だったが今は潜入捜査で、ドラッグをばらまいている組織に所属しているのだ。そんな男が、挨拶をするはずもない。そう判断して、申し訳なく思いながら、女の挨拶を無視してその場から離れた。

 けれど、それから椋はその女が気になるようになった。

 どんな格好をしても、柄悪く下品に歩いていても、その女は「おはようございます。」と、店先を掃除をしたり、花の手入れをしながら挨拶をしてきた。何度、椋に無視されても諦めることはなかったのだ。
 椋がその女を見ていると、いつも楽しそうに花を見つめ、微笑んでいた。きっと、彼女は花が大好きなんだ。そんな風に思うと、とても可愛らしいな、と思い頬を染めている自分がいた。
 挨拶をしてくれるのは、自分だけではない。店先を歩く人には挨拶をしているのは知っていた。けれど、自分にもしてくれるということは、悪くは思っていないのか、などと考える日々が続いた。


 それから毎日その店を通るのを楽しみになっていた。

 そんなある日。