「なら、鑑。自分で守るんだ。復讐なんてしてる場合じゃないだろう。彼女は麻薬屋に対抗しようとしたんだ。………これからどんな風に相手が出るかもわからない。」
 「…………そう、ですね。」
 「彼女に警察官になってもらいたくないのなら、おまえが警察に戻ってこい。忘れてしまった事を思い出させてやるさ。」
 「…………考えておきます。」


 その返事を聞いて満足したのか、滝川は立ち上がった。
 それに椋は驚き、自分から声を掛けた。


 「俺を逮捕しないんですか?」
 「何故、おまえを捕まえる必要があるんだ?」
 「拳銃の不法所持ですよ。それに警察を辞めたのに、捜査を続けていました。」
 「………それはおまえが勝手に調べていただけだろう?それに、拳銃は俺が押収したものをおまえが誤って触っただけだっただろう。」
 「滝川さん…………。」


 滝川はニヤリと笑うと、背を向けてゆっくりと歩き出す。


 「おまえは、寸前で復讐を止めたんだ。…………警察は、正しい事をした奴の味方だろう。」


 右手を挙げて挨拶をしながら、滝川は深夜の病院の廊下をコツコツッと靴音を響かせながら立ち去っていく。




 その背中を見て、椋はいくつになっても彼には敵わないなと思った。