「鑑。おまえ、結婚していたんだな。」
 「………調べたんですか?」
 「おまえの奥さん、花霞さんが俺の所まで会いに来てくれたんだ。」
 「なっ………。」


 滝川が話した事は、椋は初耳だった。
 花霞が滝川の元を訪れた。どうして、彼女がそんな事をしたのか?
 椋は、驚いた瞳で滝川を見つめた。


 「おまえの居場所を見つけたいと、おまえの知り合いはいないか?と、警視庁に訪ねて来た。おまえが警察じゃないと知って驚いた様子だった。けれど、鑑を助けたいという気持ちは強い瞳に宿っていた。…………いい人だ。おまえには勿体無いぐらいの、女性じゃないか。」
 「…………花霞ちゃんが………。」



 彼女はまだ自分の言葉を信じてくれていたのだ。あんなにも酷い言葉を投げつけたのに、椋の事を疑いもせずに居てくれた。
 そして、心配して探そうとしてくれた。

 その真実に、椋は瞳が熱くなった。


 「彼女はおまえが何をしようとしているのか知っている気がしてね。そして、妙な胸騒ぎがしたから、俺の女性部下に監視を頼んだ。そしたら、まさか麻薬屋の檜山の所まで案内されるとは………驚いたよ。ラベンダー畑は情報があったがいつ行われるかわからなかったからな。すぐに数人の部隊をつれて、俺が向かったんだ。」
 「………花霞ちゃんが、助けてくれた、のか…………。」
 「あぁ。おまえの奥さんの思考や行動は素晴らしいな。ぜひ、警察に勧誘したいぐらいだ。」
 「………ふざけないで下さい。彼女は、ただ花が好きな普通の女性です。それに、これ以上傷つけるわけにはいかないんです。」


 花霞の行動のお陰で、自分は助かったのだとわかった。そして、彼女の働きが麻薬屋の幹部の逮捕に繋がったのだともわかった。

 けれど、彼女をこれ以上この事件に関わらせたくなかった。
 花霞は幸せに笑っていて欲しいだけなのだ。
 そのためには、自分が守るのだ。


 そう思った瞬間、椋はハッとした。

 何回も自分で花霞を守ると言っておきながら、何度も彼女から離れてしまっていた。
 今だって、彼女を置いて復讐の気持ちだけで動こうとしてしまったのだ。そのために、彼女は命の危険にさらしてしまったのに。

 何をしているのだろうか。
 彼女を守りたいのなら、彼女の傍にいなければならない。そして、笑顔にしてあげなきゃいけない。
 俺の大切な人なのだから。