「おまえが警察を辞めてから、檜山を追っているという噂は聞いていた。………遥斗のために追ってたのか。」
「あいつは、薬漬けにされて苦しんでるところを殺されたんです。苦しんで苦しんで…………そして、拳銃で1発……。許せるはずがない。」
遥斗は、檜山が幹部をしている麻薬屋に椋よりも長く潜入捜査していた。だが、途中で警察だとバレてしまい、薬を射たれて、情報だけ吐かせ、ボロボロになった所を拳銃で撃たれた。
それが、花霞がいつも花を手向けてくれていた場所だった。
「だから、檜山を殺そうとしたのか?……同じ拳銃で。」
「苦しまないですぐに死ねるだ。楽な方ですよね。」
「お前は元警察官だ。復讐での殺しは何も幸せにならないと知ってるだろう。捕まえて罪を認めさせれば………。」
「そんなのじゃ、あいつは反省なんかしない!遥斗をあんな状態にした奴を俺は許さないっ!」
椋は、興奮した様子で声を上げた。
遥斗が死んだときの顔を、椋は今でも思い出す。
頬が痩け、目の下は真っ黒になっており、顔色も酷く悪かった。体のいたる所には傷や痣があり、すぐに遥斗とは思えない姿だった。
椋は遥斗の遺体が運ばれて来たのを見て、大泣きをしながらも心の中は怒りが増幅していった。
遥斗はこんな姿で死んでいったのに、警察で檜山を見つけ逮捕出来ても、彼はのうのうと生きていくのだ。それが、どうしても椋には耐えられなかった。
「………鑑………檜山も撃たれた。腕を負傷してはいるが生きている。そして、警察に捕まった。」
「………じゃあ、俺が殺してやる。警察に侵入してでも、罪を犯して同じ刑務所に入ってでも………。」
「じゃあ、彼女はどうする?彼女を独りにして、おまえはいなくなるのか?」
「……………。」
花霞は今でも苦しんでいる。
目が覚めると信じている。
けれど、彼女が死んでしまったら?そう思うと怖くて仕方がなかった。
花霞までいなくなってしまったら、自分が壊れてしまいそうだった。
そんな風になるなら、今すぐにでも檜山を殺して自分も死にたい。そんな弱音が頭をよぎっていた。
そんな様子を見ていた滝川は、鑑を無言で見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
それは、今までで聞いた事がないぐらいの、優しく語り掛ける口調だった。