そんな時だった。
コンコンッと花霞の病室のドアがノックされた。花霞の部屋は個室であるため、彼女か椋に用事があるものが訪ねてきたのだとわかった。
花霞から離れたくなかったが、仕方がなく椋は椅子から立ち上がった。
今は深夜という時間帯。こんな時間に訪ねてくるのは誰だと考えながら、ゆっくりとドアを開けた。
すると、予想していた通りの人物が立っていた。
「夜遅くに悪いな。話し、いいか?」
そこに居たのは、スーツ姿の滝川だった。こんな深夜だと言うのに、彼の表情は全く疲れを感じさせない。先程まで、銃撃戦を繰り返していたとは思えなかった。
「………滝川さん。きっと来ると思ってました。………けど、今は彼女の元から離れたくないんです。後にして貰えますか?」
「檜山の事、知りたくないのか?」
「………わかりました。少しだけ、なら。」
椋は、渋々滝川の後についていく事にした。
夜の病室は怖いぐらいに静かだ。
椋と滝川は真っ暗な外来の待合室のソファに向かい合って座った。
「………久しぶりだな、鑑。」
「………檜山は………あいつは死にましたか?」
「順番を追って説明する。そう焦るな。」
「早く彼女の元に戻りたいんですよ。死んだか死んでないかだけ、教えてください。」
「いいから、聞け。おまえの奥さんの事を話すって言ってるんだ。」
ピシャリと椋に言葉をぶつけてくる滝川に、椋はつい言葉を失ってしまう。
滝川は椋の元上司だ。
しかも、この男はかなり出来る上司で、組んで仕事をしていた時は、いつも怒られ指導されており、頭が上がらない存在だった。
そのため、滝川に言われるとつい言葉を詰まらせてしまうのは、今でも変わらないようだ。