「…………は、花霞ちゃん……………。」


 花霞の体がガクンッと揺れた。
 彼女の顔はどんどん歪んでいく。それと同時に、体に力が入らなくなったのか、椋の体に倒れ込んでくる。それを支えた椋は肩の部分にぬるりとした生暖かい物を感じる。

 恐る恐るそちらを見ると、自分の右手が真っ赤に染まっていたのだ。
 椋はそれを目にした瞬間、血の気が引くのを感じた。


 彼女が撃たれた。
 それを理解した途端に、恐怖から体の震えを感じたのだ。

 
 
 「椋さん………やっと会えた………。」


 花霞の震える声が聞こえる。
 君のこんな声を聞きたかったんじゃない。明るく微笑みを浮かべた顔で自分の名前を呼んで欲しかった。そんな苦しさを押し込めて必死に笑おうとしている顔ではないのだ。
 
 椋は、花霞の揺れる瞳を見つめて、やっとの事で言葉を発した。



 「なんで、なんで君が…………どうして、君がここにいるんだ…………。」
 


 どうして花霞が撃たれなければいけない。
 どうして、花霞に助けられているのだ。
 どうして………いつも、大切な人を守れない。


 頭がガンガンする。

 
 彼女の背中から、沢山の血が流れ落ちている。花霞の服も真っ赤に染めて、アスファルトの地に花びらを敷き詰めたように赤くなっている。


 怖い。
 椋はまた、恐怖を感じた。


 何が怖いのか。
 自分が撃たれるのが、怖いのか?彼女の血が怖いのか?


 違う。
 花霞を失うのが怖いのだ。