椋が彼らに近づくと、さすがのボディーガードも椋の気配を察知し、こちらを向き始めた。けれど、椋の足は止まらない。


 
 「ひぃやまぁぁっっーーーっっ!!」


 気づくと椋は叫んでいた。
 今までずっと椋の中にあった恨みの気持ちが一気に吐き出されるようなそんな強く低い声が響いた。

 拳銃を向ける。
 
 檜山を殺すはずなのに、男は椋を見て楽しそうに笑っていた。
 椋はその表情を見た瞬間、最後の冷静さも失ってしまった。


 殺す。


 それだけが頭の中を支配した。


 ここで撃ってもボディーガードに当たるだけ。そんな事はわかっていたはずなのに、椋は引き金に力を込めようとした。
 

 けれど、体にドンッと衝撃が走った。

 始めは先に撃たれたのだと思った。
 しかし、それは違うとすぐにわかった。
 体に温かいぬくもり。そして、大好きだった香り。そして、髪の感触。
 それを感じて、すぐにその正体に気づいた。


 ずっと会いたかった人。
 最後にもう1度だけ会いたいと思った人が、自分に飛び込んできている。


 驚きと胸の高鳴りを感じ、愛しい人の名前を呼ぼうとした。

 けれど、その言葉は残酷な音に消されてしまった。

 パンッという聞きなれた銃声と、鈍い衝動を感じたのだ。