必死に彼に向かって駆けて行き、花霞は彼の名前を呼ばずに彼の正面を覆うように抱きついた。彼が花霞に気づいて視線を逸らしてしまえば、隙をついて相手に撃たれてしまうと思ったのだ。


 彼の香りを感じたと同時に、パァンッという乾いた音が鳴った。
 音が耳に届いた後は、花霞が感じたのは体への衝撃と刺すような鋭い痛みだった。

 その後も、パァンッパァンッ!と銃声が鳴っていたけれど、花霞の耳には届かなかった。


 「………か、花霞ちゃん………。」


 懐かしい声で、自分の名前を呼ばれている。
 それがたまらなく嬉しいはずなのに、花霞は彼を抱きしめる手に力が入らなくなり、ずるずると倒れそうになる。
 それを椋が支えてくれる。


 「椋さん………やっと会えた………。」
 「なんで、なんで君が…………どうして、君がここにいるんだ…………。」
 

 椋に会えて嬉しいはずなのに、痛みからかフラフラしてしまう。けれど、必死に微笑んで椋に向けて言葉を紡いだ。


 「ま、もりたか……たから………。」
 「………っっ………。」
 「生きて………ほし………。」


 折角、椋を守れたと言うのに、何故か彼は泣きそうな顔をしている。

 花霞はどうしたの?と聞きたかったけれど、言葉が出てこない。まるで、しゃべり方を忘れてしまったかのように口を開けても、声が出なかった。


 その内に、急激に眠気が襲ってきた。
 ゆっくりと瞼が重くなり自然と閉じていく。


 最後に見た彼は、今にも泣き出してしまいそうな顔だった。

 
 椋の笑顔が見たい。


 そんな事を思い、椋が何度も自分を呼んでいるような気もしたけれど、花霞はそのまま意識を飛ばしてしまったのだった。