「早く椋を見つけなければいけないのに……。」
焦れば焦るほど、考えることが出来なくなる。
花霞は1度ホームの待ち合い席に座り、気持ちを落ち着かせる事にした。
フーッと深く深呼吸をしながら、結婚指輪と、胸のネックレスに触れる。炎天下の中歩いたからか、温かく感じられた。
そんな時だった。
一人の女性が花霞の前を通りすぎた。ふわりと風を感じ、そしてそれと共に香りも感じたのだ。
それは、花霞にも馴染みのある落ち着いた花の香りだった。
「これは…………ラベンダー………。」
椋が眠れないからと言って、寝室で焚いていたアロマの香り。それがラベンダーだった。小さく紫の花が可憐で美しい植物だった。
ラベンダー………その言葉を口にした瞬間、花霞の頭に過るものがあった。
少し前に椋はラベンダーを見て、仕事で行っている場所にこの花の絵をよく見ると言っていた。ラベンダーのアロマを使ったときも、何故だかこの香りを知っているようだった。
そして、行けなくなってしまったデートの話しをしている時。花霞が「ラベンダー畑に行きたい。」という提案を、椋が珍しく行くのを渋り、他の場所を伝えて来たのを思い出したのだ。普段の彼ならば、花霞が行きたいと言った場所に出来る限り連れて行ってくれていた。
そんな彼だからこそ、今となれば少し不審な行動に感じられた。
「ラベンダー畑…………。そこに椋さんが居るかもしれない。」
花霞は、どれが正解なのかわからない中、きっとラベンダーが彼の場所をおしえてくれたのだと思った。
ラベンダーの香りが、彼の居場所を教えてくれた。
椋は必ずそこに居る。
花霞はそう信じて、ラベンダー畑に向かう事を決めたのだった。