33話「道しるべの花」




  ★★★



 「泣いているだろな…………。」


 椋は小さく言葉を吐いた。
 その自分の言葉で、更に切なくなってしまう。


 椋は今、小さなビジネスホテルに居た。
 大きなホテルでは目立ちすぎてしまうため、雑居ビルが立ち並ぶ中にある、ひっそりとした古びたビジネスホテルを選んで泊まっていた。


 椋が追っていた人物はまだ、椋が命を狙っているなど気づいていないだろう。だが、その人物のボディガードは誰かが嗅ぎ回っているのを察知しているはずだった。

 そのため、しばらくは様子を見るだけにする予定だった。


 ここで迂闊な行動をしてしまい、何年にもわたって調べてきてチャンスを伺ってきた事が全て無駄になるのは避けたかった。
 それに、椋の事を調べられて彼女に危害を加えられるのは1番避けたいことだった。


 花霞と離れてまだ2日目だというのに、椋は彼女に会いたくて仕方がなかった。
 自分から突き放したのに、都合がいい話しなもしれない。自分の言葉で彼女を傷つけた。彼女に悲しい思いをさせ、きっと泣かせてしまった。全て自分のせいだというのに、椋は花霞に会って、抱きしめて「ごめん。」と言いたかった。