31話「別れのラブレター」





 バタバタと廊下を走り、花霞は部屋の鍵を開けて入った。

 すると、何かがいつもと違う気がした。違和感を感じながらも、花霞は何が違うのかわからなかった。

 
 「椋さん………?」



 けれど、先程まで、この部屋に彼が帰ってきていたのではないか。花霞はそう思ったのだ。


 息をハーハーッと吐きながら、花霞は部屋が少し涼しいことに気づいた。やはり、先程までこの部屋には椋が居たのだ。

 よろよろと歩きながら、花霞は躊躇うことなく椋の書斎に足を踏み入れた。
 


 「…………椋さん………。」


 
 その部屋は、明るかった。
 カーテンは明けられ、部屋には日の光りが入り込んでいた。
 けれど、花霞が見つめる先。そこには机とテーブル、そして本棚しかなかった。
 壁に貼ってあった地図も、机に置いてあったパソコンも、紙も新聞の切り抜きもなくなっていた。
 引き出しには、花霞との写真は残っていたけれど、数枚少なくなっていたし、藤堂遥斗と一緒に写っていた写真はなくなっていたのだ。

 

 「無くなってる………椋さんが調べてたもの全部……。これじゃあ、まるで………。」



 花霞はヘナヘナと床に座り込んだ。汗がポタポタと床や服に落ちた。
 もう少し早くここに戻ってくれば彼に会えたかもしれない。止められたかもしれない。
 
 椋に会いたい。