椋の冷たく強い言葉。
 花霞を拒絶する態度に、花霞は体が固まってしまった。
 椋は鋭い視線で、花霞を見た後にバックからある物を取り出した。


 「少し早いが、もう終わりにしよう。」


 椋が差し出したのは、1枚の薄い紙だった。
 花霞はそれを受け取り見ると、そこには「離婚届」と書いてあった。


 「………な、何で!?私、離婚なんかしたくない!椋と離れるつもりなんてないよ………!?」


 花霞は離婚届けをすぐに彼に戻し、椋を見つめて訴えた。けれど、彼はそれを受け取って、テーブルの上に置いた。


 「もともと期間限定の契約結婚だったはずだ。俺がもうおしまいにしたいんだ。」
 「なんで………なんで急に…………。」
 「…………決まってたことだ。」
 「椋さん、私は………!」
 「急に出ていけないと思うから1ヶ月はここを使っていい。それ書いたら、テーブルの上に置いといて。」
 「椋さんっ!!」


 花霞の言葉に返事をする事も、彼女を見ることもなく、椋はそのままリビングを出ていってしまう。

 花霞は少し躊躇った後、彼を追いかけたけれど、椋はそのまま家を出ていってしまった。



 「…………椋さんと離婚…………。そんなの、イヤだよ。」


 花霞は、突然突きつけられた別れの言葉に、唖然とし、そして涙が溢れた。

 リビングに戻ると、それが夢ではなかったとわかる離婚届の紙が置いてある。

 花霞はそれから逃げるようにリビングから離れて、寝室に入った。

 ベットに体を投げると、そこからは椋の香りがしてくる。


 「椋さん…………離れたくない。………どうして?」


 涙は止まることもなく、シーツを染めていく。花霞は嗚咽をこぼし、何度も彼の名前を呼んだ。

 けれど、もう優しく頭を撫でてくれたり、名前を呼んで微笑んでくれる彼はどこにもいなかった。


 その日から、椋が家に帰ってくる事はなかった。