「いいから。あんまり大事にしたくないんだ。」
「………そんな………。」
「ほら、それより、ただいまのキス。」
椋は痛みに耐えながらなのか、顔を少ししかめながらも、花霞に近づき頬にキスをした。
花霞はそんな彼に「…………帰ってきてくれて、よかった。」と、涙を我慢しながら言った。
椋は病院に行くのを拒んだため、花霞は椋の体を支え、ベットまで運んだ。着替えを手伝い、傷がある所は消毒し腹部や頬など赤く腫れてるところは氷で冷やした。
「痛いな………。」
「…………だから、病院に行ってほしいです。」
「んー………明日まで治らなかったらね。」
「もう………。」
「注射とかされるのイヤだろ。」
椋はわざと冗談を言い、花霞を安心させようとしている。けれど、彼の姿は痛々しく、見ているだけで辛くなってしまう。
「………今日はもう休んで。私、隣にいるので、何かあったらすぐ呼んでね。」
「………花霞ちゃんは心配性だな。」
「心配しますよ!…………本当に心配したんです………。」
メッセージを返信もなく、全く帰ってこない彼。仕事柄、何に巻き込まれてもおかしくないのだから、心配するのは当たり前なのだ。
思わず、大きな声を出してしまったけれど、それぐらいに、待っている間も、今も不安だったのだ。
涙が出るぐらいに、心配で不安で仕方がないのだ。
「………ごめん。連絡もできなくて。そして、こんなみっともない姿見せて。明日には元気になってるから、ね。」
「…………無理はしないで、明日も休んでください。」
「…………花霞ちゃんは、怒ると怖いなー。」
困ったように微笑みながら、花霞の頭をよしよしと撫でてくれる。
その表情は、いつもより疲労しており、今にもすぐに寝てしまいそうだった。
「電気消すね。おやすみなさい。」
「うん………。おやすみ。………花霞ちゃん、看病、ありがとう。」
そういうと、また挨拶のキスを忘れずにして椋はゆっくりと瞼を閉じた。
しばらくすると、彼から静かな寝息が聞こえた。なかなか寝ない彼が、花霞の前では寝ることが少ない。それなのに、今は熟睡している様子を見て、やはり彼が疲れており、怪我により疲弊しているのがわかった。
彼がどうして、あんな怪我をして帰ってきたのか。そして、病院に行くのを拒む理由がわからなかった。
それにもう1つ、どうしても気になることがあった。
椋からは煙のような、花火と似た匂いを感じたのだった。