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 倒れるように寝てしまった、花霞を椋は呼吸を整えながら見つめていた。
 彼女の目から頬にかけては、涙の跡がついていた。



 自分の書斎に花霞が入ったのがわかった瞬間。
 椋は恐ろしさから気が動転してしまった。
 
 彼女はどうしてこの部屋に入った?
 彼女は何を見て、何を知った?
 それが、恐くてしかたがなかったのだ。

 それから思ったのは、彼女をもう2度とここに入れてはダメだ、という事だった。


 だからこそ、彼女に「お仕置き」として、あんなにも酷い事をしてしまったのだ。 
 彼女は自分の表情と態度、そして行動に怯えていた。そして、謝りながらも椋のした事に必死に耐えていた。

 終わった時の疲れきった顔と、泣き腫らした瞳。


 そして、自分が拘束した手首は赤くなっていた。



 「もうしたくない。…………だからと言って、まだ君を手離したくない。」



 椋はぐっすりと眠っている、彼女の頬についた涙の粒を指で優しくすくった。そして、彼女の汗で額にはりついた前髪を、整えてる。
 そして、花霞にゆっくりと近づき、彼女を起こさないように、頬に触れる程度のキスを落とした。

 それは、謝罪のためだったなのか、は「おやすみ」のキスだったのか。椋にはわからなかった。


 「お願いだ。俺を知ろうとしないでくれ。」



 椋はそう独り呟くと、ゆっくりと寝室を後にした。