「………それで書斎に入ったの?俺が絶対に入らないでって言ったのに。」
 「…………ご、ごめんなさい。」


 彼の表情は変わらず無表情で、冷たささえも感じるほどだった。


 「…………花霞ちゃん。」
 「っっ!!」


 名前を呼ばれると、また花霞は深いキスをされる。先程、息が出来ないほどの苦しいキスをしたからか、花霞は彼の唇が触れるだけで体が震え、「怖い。」と思ってしまった。

 花霞が苦しさから彼の体を押そうとすると、その両手は椋にあっさりと掴まれてしまう。
 そして、頭の上に片手で固定されると、やっとの事で唇を離される。


 また、ハーハーッと呼吸を整えているうちに、椋はすばやく行動をしていた。


 「りょっ、椋さんっっ!!?」


 花霞が気づく頃には、自分の腕は動かなくなっていた。腕を引き戻すと、両手首には先程まで彼がつけていた黒いネクタイでしっかりと結ばれていたのだ。


 「これ、外してください。やだ………。」


 固く結ばれた椋のネクタイは、花霞が動いたぐらいでは全く緩むことはなかった。
 花霞は、恐怖から彼女は全身の震えが止まらなくなっていた。


 「ダメだよ、花霞ちゃん。始めに言った、よね?」
 「………ぇ………。」


 冷たく低い声で椋がそう言うと、花霞は消えてしまいそうな声しか出なかった。
 約束を守れなかった時。
 その話しを確かに椋としていた。それを思い出した途端、花霞はハッとした。

 その様子を見て、椋はその時、初めて表情を変えた。
 口元をニヤリとさせて笑っているようだったけれど、その表情は見たものを凍らせてしまうような、そんな恐怖を感じるものだった。






 「約束を守れない花霞ちゃんには、お仕置きだよ…………。」