バタンッ!

 
 ドアが強く閉まる音がした。

 その音で、花霞は朦朧としながらも、椋が帰ってきたのかな、と思った。起きたいけれど、疲れからか瞳を開けなくなってしまい、またゆっくりと目を閉じて再び眠りに落ちていった。けれど、頭の中では「椋さんは普段あまり音をたてたりしないんだけどな。」と、不思議に思いながらも、その考えもすぐに眠りにより消えてなくなってしまった。




 それからどれぐらいたっただろうか。
 すぐであったと思うし、少し時間が経ったかもしれない。
 ドンドン、という足音とベットの軋む音が聞こえた、椋が帰ってきたのだ。そう思って花霞が目を開けた時だった。
 いきなり、唇にキスをされた。それは、言葉や呼吸を全て取られるような深いキスだった。


 花霞は驚き、目を大きく開いた。
 そして、すぐ訪れる苦しさから彼の胸を叩いた。けれど、椋は全くそこからよけてはくれなかった。恐怖と息苦しさを感じ、彼の顔を見つめる。サイドテーブルのライトが彼の横顔をうつすと、そこにはただ冷たい視線で花霞を見つめる椋がいた。

 それを見た瞬間、花霞は体がビクッと震えてその場から動けなくなってしまった。


 ようやく、唇を離されると花霞はゴホッゴボッと咳をしながら、荒い呼吸をしながら、椋を怯えながら見つめた。


 「………椋さん………。」
 「花霞ちゃん。花霞ちゃんは、俺との約束、忘れた?」
 「え………。」


 スーツを着ていた椋は、花霞を閉じ込めるように片手をベットにつき、花霞に股がっている。ジャケットを脱ぎながら、片手で黒のネクタイを緩めると、椋は低い温度のない声で言った。


 「………俺の書斎に入ったよね?」