「彼女の前に、2度と目の前に現れるな。彼女を泣かせるな。…………それをやぶったら、徹底的に潰す。」
 「あ、あんな女、どこがいいんだ!俺だって会いたくもないっ!」
 「………チッ!」
 「っっ!!」


 舌打ちと共に、男の拳が玲の頬に食い込み、体が壁に吹っ飛んだ。
 玲の顔からは鼻血が出ており、左頬は真っ赤に腫れ上がっていた。


 「はー………殴るつもりじゃなかったんだが………。俺も我慢出来ない方なんだ。悪いな。」
 「………こんな暴力………いいと思ってんのか?」
 「………忠告はした。もう花霞とは関わらないでくれ。何かあるなら俺が聞く。あぁ、それと佳奈って女、今は他の男とデート中だ。残念だったな。」
 「っっ!!………くそっ!」


 サングラスの男は、玲を鋭い視線で睨み付けながらそう言うと、ゆっくりと廊下を歩き出ていこうとした。

 
 玲は、よろよろと体を起こし、頬を押さえながら最後に大きな声で罵声を上げた。


 「そんな事する奴は、花霞を幸せになんかできないんだよっ!!」
 「……………。」


 玲の言葉に返事はなく、バタンッと扉が閉まる音だから返ってきた。



 扉の外で、男が「そんな事はわかってる。幸せに出来ないから………今だけは守ってあげたいんだ。」と呟いたのは玲には聞こえるはずはなかった。