「はい。どちら様?」
「スマホ落としてませんか?部屋の前に落ちてたのもので。」
「え………。」
玲は慌ててズボンのポケットを探った。すると、あると思っていたスマホがなくなっていたのだ。帰宅する前に落としてしまったのだのだろうか。
玲は、落としたことに気づかなかったと思い、「今、開けます。」と、ドアを開けた。
「この携帯、あなたのですか?」
そこには、黒のサングラスをかけた背の高い男が立っていた。白いTシャツに黒ズボンというラフな格好だが、上手く着こなしているせいか、とてもかっかよく見えた。サングラスで瞳は隠れているが、整っている顔だとうのもわかった。
「あ、俺のだわ。どうも、助かった。」
玲は簡単に礼をすると、さっさとドアを閉めようとした。
が、ガタンッと音がした。強い力でドアが開かれていく。振り替えると、サングラスの男が手でドアを開けていた。
「おい、何するんだよ!用は済んだだろ。」
「いや、俺の用が済んでないんだ。ちょっと話し聞かせて欲しいんだけど。」
「は?何で、俺が………。」
サングラスの男の力が勝り、ドアはあっけなく全開に開かれる。玲は唖然としながらも、男を恐怖の目で見た。
スマホを拾って貰っただけの、他人のはずだ。話しなど玲はなかった。
サングラスの男は無表情のまま、冷たい声で言葉を発した。
「今日の会社も不採用だ。もう少しでメールがくるだろう。」
「なっ…………。」
「この3日で5社の正社員やアルバイトでも全て不採用。残念だな。」
「お前、何言って………っっ!!」
ドガッと音かした。
それと同時に、玲の体が後ろに吹っ飛び、部屋の廊下に倒れ込んだ。少しずつ腹部に痛みを感じ始め、声も出ずに「ゴホッゴホッ!」と深い咳が出た。
呼吸も苦しく、玲は腹を抱えながら咳をくり返した。恐る恐る玄関の方を見ると、サングラスの男が部屋に入ってきた。黒い靴を履いたままこちらに向かってきている。
その背後でバタンッとドアが閉まる音が聞こえた。
突然蹴りを入れてきた知らない男と2人きりになってしまったのだ。玲は恐怖から体が震えた。