「大丈夫ですかっ!?どうしました?」
 「あ…………。」


 眩暈を感じながらも、ゆっくりと目を開けるとそこには、焦った様子の男の顔があった。
 男の顔と真っ暗な雲が見える。激しい雨が顔に降り注がれている。

 花霞はしゃべるのも億劫だったけれど、これ以上男に迷惑を掛けられない思いと、早くこの場から立ち去りたい気持ちとが重なり、必死の思いで体に力を入れようとした。けれど、自分の体ではないかのように、全く体が動かせなくなっていた。寒気を感じるようにもなってしまった。


 「すみません………でも、少しふらついてしまっただけなので。」
 「無理しないでください。」


 この男の人はどうしてこんなに優しいのだろうか。
 やはり何か裏があるのかもしれない。そんな事を考えながらも、花霞は体がダルくなり、考えることさえも面倒になってしまった。
 このまま温もりを感じながら寝てしまえば、その時だけは楽になるかもしれない。

 この人がもし悪い人で、何かされるとしても、もうどうでもよくなってしまっていた。

 遠のいていく意識の中で、花霞は「玲………。」と、先程まで恋人だった彼の名前を呟いていた。







 降りしきる雨の中、男が「玲………ね。」と、その名前を頭に刻むように小さく言葉を発したのを、花霞は知ることもなかった。