「しーちゃん、話って何?」

「えっ、あ……うん。あのさ、ここ、覚えてる?」

家から少し離れた、高台を走る崖沿いの道路の脇の小さな敷地に造られた東屋(あずまや)のベンチに座ってしーちゃんが言った。
私は東屋の腰壁に肘をついて、夕陽に染まる崖の下の街並みを見下ろしながら答える。

「えーっ? うんとねぇ、あ、そうだ! 確か昔ここで……しーちゃんおしっこ漏らしちゃったんだっけ?」

「ちげぇよっ! 違わなくもないけど……そんなんじゃなくて」

私が振り向くと、しーちゃんは少し頬を染め下を向いていた。私はそのしーちゃんの姿が、なんだか昔と変わってないように思えて、ちょっぴり嬉しくなってしーちゃんのほっぺたみたいな色の遠くの空を見上げた。

「ねぇ、話ってなに? 早くしないと暗くなっちゃうよ? あ、高校行くのやめたいとかそういうのは絶対ダメだからね」

「まだ行ってもないのにやめねぇよ。そんなんじゃなくてさ」

「じゃぁどんなんなの?」

「その……お前、昔ここで言っただろ。俺が東京の高校行こうか悩んでた時。"私はしーちゃんがどこ行ったってずっと一緒だよ"ってさ」

「そうだっけ?」

私がそうやってとぼけて笑ったのに、しーちゃんのいつもの"なんだよ、ばーか"という言葉は私の背中に返ってこなかった。
今思うと、しーちゃんはこの時から緊張してたんだなって何だか可愛く思えたりもする。

「そんな事言う為に寄り道したの? 結局私と一緒の高校になっちゃったんだからさっ、否が応でもずっと一緒じゃん」

「うん。そうなんだけどさ……別にそれは本題じゃないっていうか」

「もう、なよっちいなぁ。男だったら言いたい事はっきりいいなよ。私達の仲なんだからさ」

私が振り向いてそう言うと、しーちゃんはゆっくり立ち上がって私の目の前まで来ると、いつもの子供みたいな笑顔は消えていて、不似合いな真面目な表情でそっと口を開いた。