「全く。無理するからだ、馬鹿野郎」

本当に軽い力で、もっさりとした保健医にデコピンをされる。

私、四ノ宮ハルノは高校二年生。

ついさっき、体育祭で思い切り熱中症になってしまい、今は保健室に来ている。

そして私にデコピンをしたのは、初瀬トオル先生。

もっさりとした黒い髪型に、分厚い眼鏡をかけた三十路の保健医の先生。

失礼だけど、彼はまぁそれはそれはモテない。

簡単に冒頭のような言葉を言ってしまったり、熱中症で倒れた人にデコピンをするような人だ。

でも……。

「ほら、これ脇に挟んでおけ。あと頸動脈とかにも当てとくといいから」

と言って、備え付けの冷凍庫に入れてあった保冷剤を渡してくれる。

「あと、これ舐めとけ」

ベッドに横になり、ぼんやりと天井を見つめていた私の口に放り込まれた、甘じょっぱい何か。

「……なにこれ、甘じょっぱ……」

「塩飴だよ。熱中症ってのは、水分だけじゃなくて塩分も摂らなきゃいけないんだよ」

ボリボリ、と髪の毛を掻きながら先生は言う。

「知らなかった……。せんせーは、物知りだね」

「馬鹿か。俺は保健医だぞ……。それくらい知らねぇと、この仕事できねぇっての」

今度は呆れたように笑って、私の頭を優しく撫でてくれる。

「とにかく、少し眠っとけ。たしかお前、もう出る種目ねぇだろ?」

「……うん、すこし寝る」

「おう」

「おやすみ、せんせー」

「……おう、おやすみ」

そこで、私の意識は沈んでいった。

私、四ノ宮ハルノ、十七歳。

実に、十三歳の年の差の三十路のもっさりもさもさの保健医、初瀬トオルに恋をしています。