「お、おい、サリア!?」

 二人の戸惑う声が重なる。けどそんなことは気にしていられない。

「私はあんなにお願いしてもクビになったのに! それを、それをっ!」

 副料理長の首がガクガクと揺れている。私の力に抗えず、されるがままとなっていた。

「可能性があるのなら頑張ればいいでしょう! ここにいていいのに逃げるんですか!? 狡い、狡いです。貴方は狡い! 私は居場所を失ったのに、それでも未練たらしく足掻いているのに!」

 私情溢れすぎる叫びには、さすがの副料理長も困惑していた。

「料理が好きなんですよね!? だから料理人になったんですよね!? なのにどうして諦められるんです。所詮その程度ですか、そうですか。私は違いますよ! こっちは一生を捧げる覚悟なんです。副料理長は!? どうなんですか!?」

「僕は……」

「さっさと答える!!」

 一括すれば、副料理長は背筋を正して言いました。

「料理が好きだ! 一生を捧げる覚悟だ!」
 
 若干私に怯えての発言にも見えますが、意思のある肯定と判断しましょう。私の渾身の説得、もとい心情の吐露が副料理長の心に変化を与えたようです。

「お前、あんなに熱くなることもあるんだな」

 淡々と仕事をこなし、必要最低限の会話しかすることのない私の一面に、料理長は驚きを隠せないらしい。私だってこんなことは初めてで、自分でも驚いています。逆鱗に触れた副料理長がいけないんですよ。

「すみませんでした。ついかっとなってしまい……」

「いや、お前の本音が聞けて良かったよ」

 料理長は恥じ入る私を励ましてくれた。
 そして今度は立場を失くしている副料理長の肩を叩く。