「見てわかりませんか?」

 私は軽くスカートの裾を持ち上げる。どうみてもこの城で働く人間でしょう。

「見てわかんないから聞いてんのよ!」

「ただの厨房勤務者ですが」

「嘘でしょう!」

 嘘だと言い切る女性は攻撃の手を休めずに怒りもぶつけてくる。
 私は攻撃をかわしながら冷静に分析をしていた。
 戦闘能力はそれほど高くない。ということは、情報収集の密偵の可能性が高いか……彼女には悪いけれど、なおさらこの城の機密をくれてやるつもりはない。

「その身のこなし、ただの城仕えなわけないでしょう!?」

「雇い主に確認でもとりますか? もちろん貴女の素性と一緒に」

 出来ないと分かった上で相手を挑発する。
 相手が冷静さを欠くほど私にとっては都合が良い。相手の行動を記憶したり、癖を見抜くのは得意だ。
 この人は左からの攻撃に弱くて、不意打ちをくらうと後退する癖がある。

「私の言葉が嘘ではないことは、すぐにわかると思いますよ」

 私は攻撃をよけながら、女性をある場所へと誘導していく。
 そして思い切り、左側から攻撃を繰り出した。

「っ!?」

 とっさに後退した女性は棚に背をぶつける。
 その拍子に棚からボールや鍋といった料理器具が溢れ、洪水のように彼女を押しつぶした。

「あ、んた……」

 押しつぶされた女性はうめき声を上げて沈黙する。

「厨房で働いていると言いましたよね。ここは私の庭も同然、棚の内部に至るまで詳細に把握しています」

 片付け下手な先輩にもたまには感謝しておこう。