仕事を終え、城の廊下を歩いていると、メイド服を着た見知らぬ女性の姿が目に止まる。何が気になったのかと言えば、それはもうカンとしか言いようがない。
 しかし顔を見れば記憶にはない人物だ。私は城で働くすべての人間を記憶している。
 客人のメイドという可能性もあるけれど、だとしたらこの城のメイド服を着ているのはおかしい。
 こっそり後をつければ、彼女が進もうとしているのは立ち入り禁止区域だ。これ以上は見過ごせない。

 声をかけると女性は何気ない顔で答えてみせる。

「この先は立ち入り禁止ですよ。もしかして迷ってしまいましたか?」

「そうみたいですね。すみません、新しく入ったもので」

「どちらにご用ですか?」

「厨房の方へ」

 よりによって私の前で厨房を指定するとは運が悪い。厨房は私の庭だ。

「案内しますよ」

「いえそんな! 教えて頂ければ十分です!」

「私も入ったばかりの頃はよく迷っていたので、一人でたどり着くのは大変ですよ。遠慮しないで下さい」

 メイドはしぶしぶありがとうございますと言った。心の中はとても感謝しているとは思えない顔で。
 おそらくはどこかの密偵か、あるいは裏家業の人間か。いずれにしろ、私の目が黒いうちはこの城で好き勝手をさせるわけにはいかない。
 厨房へ案内すれば、女性はいよいよ口を閉ざしてしまった。

「着きましたよ」
 
 もう言い逃れは出来ない。となると次の行動は……!
 予測した通り、女性は服の下に隠したナイフで攻撃を繰り出す。想定内であれば身をかわすのは容易だ。

「あんた何者!?」

 攻撃をかわされたことでただ者ではないと判断されてしまった。でも攻撃されたら誰だって避けますよね?