「みっ、なんだって!? お前、天才的な味覚センスで再現したとかじゃないのかよ!」

「違います。ちなみに私は味の良し悪しには疎いので、見て再現することしか出来ません」

「見てたって、本当にそれだけでか!?」

「本当にそれだけです」

 鍋の振り方、手順、味付けの様子……
 毎日観察し放題でしたよ。機密事項にしては管理が緩いのではありませんか?
 平然と答える私を前に、料理長は深く考え込んでいる様子だ。そんなに不思議なことでしょうか?

「……新入り。お前、今日はこれから買い出しの予定だったな」

 その通りなので素直に頷いた。

「カトラ、悪いが買い出しは任せた。新入りはこのまま俺を手伝え」

 これは……少しは認められたと思っていいのでしょうか?
 しかし夕食の仕込みに入って早々、問題が起きた。料理長はこれまで見せたことのない料理を作ると言い出したのです。

「じゃあ、後は頼む」

 後は頼むってなんですか!?
 さらには何を作るか告げただけで私を一人置き去りにしようとした。

「後は頼むって正気ですか!? 私にわかるわけないですよ!」

 必死に弁解すれば料理長は激しい剣幕で詰め寄った。

「お前あんだけ手際よく作ってたじゃねーか!」

「だとしたら調理長の手際が良かったんです!」

「そりゃどうも! だいたい任せたのサラダだぞ! 切って盛り付けるだけじゃねーか!」

「お言葉ですが料理長。私の料理の実力を軽んじられては困ります」

 そう、料理長は私の実力を見誤っている。確かに私は密偵としては優秀……それだけなんですよ!

「お前応用きかねえなあ!」

 口では悪態をはきながらも料理長は私に料理を教えてくれた。私のことを役に立つ人間と判断したのでしょう。
 以後、私は雑務担当でありながら、料理面でも補佐を任されるようになりました。これからは通常業務以外にも鍛えられるそうです。また一歩、目標に近づくことが出来ました。