主様たちを見送った私は晴れやかな気持ちで空を見上げていた。これもジオンのおかげで心残りを清算することが出来たからですね。
 けれど疑問が残る結果となってしまった。

 一流の料理人て、なんだろう……

 わりと、いや、勢いに流されて言ってしまった気がする。
 とにかくここで悩んでいても仕方がない。立ち尽くしていても一流どころか料理人にもなれやしない。
 私はレモンのカゴを手に城へと続く道を急いだ。
 時間に余裕はあるので走るほどではないけれど、少し距離があるので厄介だ。さらに途中で現在着ている変装服から仕事着に着替えなければならない。
 足早に進み続け、城下まで辿り着く。
 すると目的地まであと少しというところでなんとカゴの取っ手と器部分が分離した。
 何がおきているのか、一瞬自分でもわからなかった。

「え――」

 カゴが壊れるとは!?

 軽くなったカゴに驚き、とっさに手を伸ばす。同時に小道具を用意したであろうジオンを呪った。

「わっ、と!」

 体制を低くしてカゴを捕らえる。なんとか地面に激突する前に抱えることは出来たが、積まれていたレモンが一つ転がろうとしていた。

「わっ!」

 急いで手を伸ばすと、同じタイミングで手を伸ばしてくれる人がいた。一足早くレモンを取った私の手ごと、その人の大きな手に包まれる。

「ありがとうございます」

 親切な人がいたものだと視線を上げる。

「いや。余計なお世話だったな」

 至近距離で呟く人物を、私は良く知っていた。

 ジオン!

 本当に!

 小道具の手入れはしっかりしておいて!