という具合の話は別として。ルイス様はまだことの重大さを理解していないようだ。よりにもよって、サリアが言い出した転職先は問題だ。

「けど、これはいい機会かもしれないね。サリアが自分で将来を決めたというのなら、俺はそれを応援したいと思うよ。サリアには、普通の人生を歩んでほしかったからね」

「恐れながら、ルイス様はサリアの料理スキルを楽観視しているようですね」

「どういうことかな」

 鬼気迫る自分の気配を察してルイス様の表情も険しさを帯びる。

「ルイス様はご存じないでしょうがあいつは、サリアの奴は……料理や食に対する関心がとんでもなく低いんですよ!」

「関心が低い? つまり、料理は苦手ということかな?」

「そんな可愛いもんじゃありません。あいつは、魚と肉は火であぶればなんとかなる。野菜は生でも食べられるからと、平気で丸かじりして――あ、やべ……これ言ってよかったのか?」

 本人に聞かれていたら殴られそうだなと後悔する。「壁に耳あり窓辺にサリアあり」というのは自分たちの間では常識だ。
 ともあれルイス様の言いつけを守らないサリアではないだろう。そう推測してジオンは洗いざらい告白することにした。

「あれは王都にあるサリアの隠れ家に立ち寄った時のことです。まずあいつの家には料理道具なんて呼べるものは存在しなかった。わかりますか? 鍋の一つもないんです。指摘してやったらパンを買えば問題ないと言われました」

「……それで?」

 心なしかルイス様の口元は引きつっている。まさかサリアがそのような食生活を送っているとは考えもしなかったんだろうな。自分たちの給金は十分すぎるほどだ。

「放っておけばあいつはパンをかじってばかり! 保存もきくし、らくでいいと本人は言いやがりますが、妹分の健康状態が不安になった自分は言ってやりましたよ。少しは肉と野菜も食べろってね」

「ああ、良い判断だ」

「そもそも料理は出来るのか聞いたんですよ。そうしたらあいつ、なんて言ったと思います?」

「聞かせてもらおうか」