サリアとの出会いは、かつてルイス様と自分が旅先からの帰り道に助けたことが始まりだった。
 それは偶然の出会いだった。ところが少女は何を思ったのか、ルイス様の役に立ちたいと言い出したのだ。
 さすがのルイス様は困り果てていたが、少女の熱意に押された自分は、使える人間か審査だけでもしてみてはと進言してしまった。無力を知れば幼い少女も諦めるだろう。そう思ってのはずが、幼いサリアは年頃の娘らしからぬ実力を発揮してしまった。
 最初は帰る場所がないと訴える少女に教育を施し、使えそうならば城のメイドにでも雇ってやる程度の気持ちだった。
 けどあいつはメイドに収まるような器じゃない。もっと他に、その力を発揮出来る場所があると思わせるんだ。何より、幼いながらにルイス様への忠誠は本物だった。
 どんなことがあっても絶対に裏切る事はない。その信頼こそが敵の多いルイス様にとっては何よりも必要なものだと自分は思っている。
 少女の有能さと覚悟を見せつけられた自分たちは、サリアを密偵として採用することを決めていた。
 始めは押しかけるようにして現れた部下の存在にルイス様もどう接すべきか困っていたようだが、次第に二人は打ち解けていった。自分がサリアを歳の離れた妹のように扱うように、ルイス様にとっても部下以上の存在になっていたはずだ。
 だからこそ自分はルイス様以上にやるせない思いを抱えている。そばで見ていれば嫌でもわかるだろう。

 何故想い合っているのに素直になれない!
 まったく、今のルイス様の顔をサリアに見せてやりたいぜ。
 なんでこんな時に限って忍んでないんだよ!
 こんなにもサリアのことが大切で仕方ないと顔に書いてあるのにな。

 そもそも、不要になった密偵を野放しにしておく主がどこの世界にいる。多くの機密情報を握った存在は危険分子でしかない。だがルイス様は絶対にサリアが自分を裏切らないと信じている。
 長年そばにいればわかるさ。どう見ても二人は相思相愛だ。お互いの感情が主従という枠に収まりきらないことくらい、見ていればわかる。
 もしも自分が余計なことを言わなければ、サリアはルイス様のそばにいたいともう一度言えただろうか。ルイス様も頷いたのだろうか……。
 それは誰にもわからない。頼むから、そう思いたい。
 まったく、出会ってからお互いに年を重ねはしたが、サリアという存在に手を焼かされるのことは変わらないな……。