穏やかな日差しの見守る街道をひたすらに歩く。
 大きなトランクを抱え、つばの広い帽子を被る私は、一見するとどこかの令嬢のように見えなくもない。けれど私は料理人だ。そう胸を張って言えるまでに成長した。
 どこまでも続く道は憂鬱だけれど、その先に待ち人がいると思えば苦でもありません。一歩、また一歩と主様へと近付いているのですから。
 そもそも馬車を断り徒歩を選んだのは私です。
 途中までは気も急いていたので我慢したのですが、幼い頃に連れ去れた体験を思い出すのでどうも苦手です。成長したはずが、情けない理由に自分でも恥ずかしい。
 そ、それに! せっかくなら主様の暮らす土地を見て回りたいですし!
 新たな理由を重ね、憂鬱を消し去る。
 私が向かっているのは主様が暮らすという領主の館だ。
 モモは一足先に館の様子を見て来ると言い残し、飛び去ってしまった。
 実は主様には今日訊ねることをまだ伝えていません。これまでも、まともに手紙を送ったことさえありませんでした。せっかくなら驚かせようという計画です。

 歩き続けていると、林ばかりだった景色は畑へと変わる。
 広がりる平野は緑に染まり、リエタナは噂通りの農業地らしい。
 ちょうど目の前に広がるのはトマト畑だ。麦わら帽子を被った男性が成長具合を確かめている。遠くから見ても真っ赤に染まるトマトは美しかった。
 その奥では別の男性が畑を耕している。遠くからでも判別出来るほど、屈強な体付きだ。