それから7年が経って、自分も十分大人になった。なってしまったから、気づいてしまった。

 まだ幼かったあの頃、自分は貴族にしてはかなり異質な考え方を持っていたということ。
 貴族は、私が思っていたよりずっと貴族であることに誇りを持っていた。私にとっては気持ち悪いと感じるくらいに。

 生まれながらの、驕りの金色と碧色。

 平民とは違う、支配する側の人間であると。いや――こんなもの、誇りではない。ただの傲慢だ。相手を見下しているだけだ。
 やることと言えば、せいぜいが有識者とやらが集まって心底無駄な話をするくらいなのに。

 でも、ここではそれが普通で。
 こんなことを考える自分の方がおかしいのだ。

「アマルダ?」

 は、と我に返る。
 目の前には見慣れた父親の顔。呼び出されて話をしている途中だということを思い出す。

 何年経っても父親との間に入った亀裂は修復されていない。まだ嫌な気分が蘇るのだ。父親はなぜ私が憤ったのかに気がついていないし、例え気がついたとして、それを理解はしないだろうから。

 あの日以来、一度たりとも王子には出会っていない。城にすら顔を出していないし、父親がそうしているのか、ほんの些細な情報すら耳に届かない。
 あの婚約の話がどうなったのか、私は知らない。使用人もその話を意識して避けているような気がして仕方がない。

 まあ、十中八九流れたのだろうけれど。

 ……でも本当は、一度くらい直接お話ししてみたかった。あの、うつくしい赤い瞳の王子さまと。

「はあ、何のお話でしょう、お父様」

 どうせどうでもいい話だ。ため息をつきながらティーカップに口をつけた。

「お前は今日から王城で暮らすことになった」

「!?」

 ぶっ、と思わず吹き出す。慌ててナプキンで口を拭きながら、目を瞬かせる。

「お、おおお父様、何を……? 王城? なぜ?」

「婚約者がいるからに決まっているだろう。お前もいい歳だ。いや、寧ろ遅いくらいだな」

「こん……やく、しゃ」

 ぽつんと呟く。むくむくと期待が胸の中で膨らむと共に、疑念が首をもたげた。
 あの父が婚約を認めたのだろうか? あんな風に言ったのに?

 というか。

「……今日?」

「ああ、心配するな。侍女らに言って完璧に準備はしてある。お父様に任せておけ」

「そ、そういう問題ではなく……!」

 どうして相談のひとつもなしに。

「お前はこのくらいやらないと言うことをきかないだろうしな。脱走でもされたら困るからなあ。お前は時々突拍子もないことをするきらいがある」

 まるで心を読んだように言われて、ぐ、と言葉に詰まる。たしかに突然言われたら、脱走くらいはしていたかもしれない。

 これは決定事項で、自分にはもうどうすることもできないのだ。あれよあれよという間に身支度を整えさせられ、気がつくと馬車に乗せられていた。