目が合う。
 赤い。赤い瞳だ。真っ直ぐにこちらを見据えて、そのくせ全くと言っていいほどに表情がなかった。

「……まさか、彼だと言うのではないでしょうね?」

 低い声で唸るように言った父親に、はっと我に返る。ふっと少年の――グイードの目が逸れる。そのことに、胸がずきりと痛んだ。

 ……なぜ?

「いかにも、そうだが。何か問題でもあるのか」

「問題、ですか? 問題しかないでしょう!」

 父親が声を荒らげる。

「まさか、よりにもよって貴方の息子が、そんな、そんな『半端』だとは……思いもしませんでしたよ。それを私の娘と婚約させようとしているとは!」

「……な」

 声を失う。
 息子。国王の息子。
 婚約。この少年が、王子が――私の?

「貴方が息子と私の娘を許嫁にしようと言ってくださった時は、それほどに私のことを信用してくださっているのだと、嬉しく思ったのに……このような仕打ちを!」

「信用している。だからこそお前の娘の許嫁としてもよいと思った」

 温度を感じさせない淡々とした口調で、表情も変えず、国王は告げた。しかし私は、そのどちらもが無理に作られたものだとわかった。
 激昂する父親より、ずっとずっと傷ついて見えた。まるで、信用していた者に突然突き放されて途方に暮れるような。

 父親は気がつかなかったのか、更に言い募る。

「知りませんでしたよ。まさか貴方ともあろうお方が、平民と……! このことが公になれば、どうなるかわからない愚王でもないでしょうに、何故!?」

 グイードを見た。その瞳はやはり赤い。誤魔化しようもなく、血のように濃い赤。
 国王の息子だという言葉が本当なら、父親が言うように彼には平民の血が流れているのだろう。
 でも。それはそんなに悪いことなのだろうか?

 ……まだ自分には、よくわからない。

「お父様」

「なんだ?」

「私、気分が優れないので帰ります」

 それだけ言って、立ち上がる。そのまま部屋を飛び出した。幼くて何の力も持たない自分には、何もできなかった。そのことが酷く口惜しい。

「待て、アマルダ! 陛下の御前で、なんと無礼な……!」

 ……無礼? 自分の方が、ずっとずっと無礼なことをしているくせに。それをわかりもしないお父様に、何も言われたくはないわ。

 強く唇を噛み締める。今まで傷一つついたことのなかった唇が、ぷつんと切れた。けれど、今はその痛みが心地よかった。