少年の容貌に、私は言葉を途切れさせた。
 気品に溢れ、恐ろしく整ったうつくしい顔だったが、それよりも気になったことがあった。
 こちらを見つめる碧の双眸は宝石のように濃い色。そして光に照らされ、きらきらと輝く黄金の髪。

 服装は質素で、髪もただ梳かれているだけだったが、それが逆に彼自身の美しい容貌を際立たせていた。

「あなた、偉いお家の子なのね」

「そっちこそ」

 真似をするように言い返されて、無意識に手にした食器を見た。銀の器の表面に自分が映る。

 5年も経てば引く手数多でしょうに許嫁だなんて、と事ある毎に侍女たちが口惜しそうに言うけれど、まだ自分にはよくわからない。
 毎日念入りに手入れされる肌には傷一つなく、そして色味は違えど少年と同じ、金の髪に碧の瞳。

 この金と碧は、かつてこの国を建国した王の血が流れている証だ。いわゆる王侯貴族、高い身分の証。
 世で平等が説かれはじめてから、彼らは支配層と被支配層の壁が喪われることに危機感を抱いた。故に、支配する側の人間であると自負する貴族は、自分たちの家に平民の血が混ざることすらも拒んだ。その結果がこれだ。
 要らぬ誇りを棄てられない貴族たちは、貴族同士でしか婚姻を結ばない。必然的に金髪碧眼であればある程度身分がわかる。

 それにしても。

「どこかで、見たような……」

「ね、きみどこの子?」

 割り込んできた不躾な問いに思わず目を瞬いた。呆気に取られるが、一度深呼吸して口を開く。

「知りたいのなら、そちらから名乗るのが筋ではないの?」

「あー、やっぱり面倒臭いなぁ。名前くらいいいじゃないか。呼ぶのに困るし」

「やっぱり? 面倒臭い……!?」

 なぜそこまで言われなければいけないのかと絶句して、しかしはたと気づく。

「名前? 家名ではなくて?」

「家名? なんで?」

 心底意味がわからないというように少年は首を傾げた。この場で名前を訊くとすれば、それを知りたいのかと思ったのだけれど。