私が初めて彼と出会ったのは10歳になった頃。国が主催する舞踏会に、父親について行ったときのことだった。

 自分に許嫁とやらがいるのだということは、両親から言われて知っていた。そしてそれが当然のことであるのだと、家のためなのだと、そう言われ続けていた私は、幼いながらにもう諦めという感情を抱いていた。

 どうせ自分にはどうすることもできないのだから、相手がどんなに嫌な人でも我慢しよう。要らぬことを考えるのはやめにしよう、と。
 そんなことばかり考えていた私は、冷めた目で煌びやかに着飾った貴婦人たちがくるくると回るのを眺めていた。


「今日は、おまえの婚約者に会わせに来たんだ」

 まるで悪戯っ子のように目を細める父親を見上げて、小さくため息をつく。

「お父様。なぜ、今日まで教えてくださらなかったのです? 決められたのは私が4つの時だとうかがったような気がしますが」

「それはもちろん、おまえをびっくりさせようと思って、だ」

「びっくり……?」

 得意気な顔つきの父親を見て、一体どんな人なのだろうと、かなり不安になった。

 挨拶に回ると言って父親は私を広間の端に連れ出し、良い子にしてるんだよ、とぐりぐりと頭を撫でてから遠ざかっていく。
 もう10だ。いい加減子供扱いをするのはそろそろやめてほしい。私はきゅっと顔をしかめて乱れた自分の髪を梳った。幾らか食べ物の乗った食器を持ってひとり椅子に座り、ぷらぷらと足を揺らす。

「……暇だわ」

 ぼそりと呟く私の目に一人の少年が映った。自分と同じか少し歳下か、そのくらいの少年がこちらに近づいてくる。

「どうしたの、こんなところに子供がひとりで」

 まだ声変わり前の高い声だった。思わず、む、と眉をひそめる。

「そっちこそ子供じゃない。って、あなた――」