城に戻った一行は、王に帰着の挨拶と見舞いを述べた。幸い、王は頭痛から解放されていて、安堵を得ることができた。顔色もよく、表情もやわらかい。

「ディアナ姫、今日は誘っておきながら、大変失礼をした。遠乗りはいかがでしたかな」

 直々の声かけをいただいたディアナは、丁寧に答える。

「はい。コンフォルダ宮殿は、城からそれほど遠くありませんのに、風光明媚なところでした。グリフィンさまからお借りした馬も、とても賢く、仲よくなれました。楽しい一日を、ありがとうございました。乗馬服も、私にぴったりでした」
「服一式は差し上げよう。また出かけるがいい」
「ありがとうございます」
「それと王太子、毎度のことながらそなたは飲みすぎておらんか? ディアナ姫をよく接待してくれたのかな」

 馬車でひと眠りしただろう王太子は、それでもまだ眠り足りない様子だった。

「王、サルのような私が出なくても、頼もしくもうつくしいキールとグリフィンがいます」
「はっはは。確かにその通り。キール、疲れはないか」
「ええ。治療も受けましたので」

『治療』のことばに、ディアナは体がかあっと熱くなった。キールと、王太子妃の、背徳めいた甘い『治療』。

「姫さん、顔真っ赤」

 隣に立っていたグリフィンが、ディアナをからかって鼻で笑った。

「や、やだ。やめてください」
「あれを思い出したのか。姫さんは、意外と純だな」

 こそこそと小声で諍いしているところを、王に見つかった。

「ほう。グリフィンとディアナは、遠乗りでずいぶんと親密になったのかい」

 否定しようとしたが、グリフィンはディアナの発言を遮った。

「ええ。ディアナ姫さんは今日乗った馬を、たいそうお気に召したようで、馬についてもっといろいろ調べたいという話になり、明日は書庫に籠って知識を深めるつもりですが、入室許可をいただけますか」
「あれ、グリフィン。明日は、わたしがディアナを誘おうと思っていたのに。今日もふたりは、べったりだったじゃありませんか。ずるいや」
「馬のことなら、グリフィンに任せるがいいぞ、キール。ディアナ姫は、まだしばらく城に滞在される。お前にも機会が回ってくるだろう」

「やだよ。ディアナは世界にひとりしかいないんだ、グリフィンに奪われてしまったらおしまいじゃないですか」
「ずいぶんな熱の入れようだね。キールは、ディアナとなにがしたいのかな」
「とにかく、ふたりだけになりたいんです。わたしはディアナを口説きたい。邪魔の入らない場所で、ねえディアナ」

 王たちの目の前で、キールはディアナを誘った。困るけれど、きっぱり断る勇気がない。キールにも、恥をかかせたりしたくない。

「ははは、ではこうしよう。ディアナ、明日はグリフィン、あさってはキールに付き合ってくれないか。王としてというより、ふたりの父親としてお願いする」

 王に要請されては断れない。ディアナは照れながら快諾した。